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東京高等裁判所 昭和34年(く)81号 決定

少年 M(昭一四・八・一二生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の理由は、少年は、昭和三十四年八月十一日静岡家庭裁判所浜松支部で、兄Gと共謀の上同年七月二日午前一時頃浜松市○町○○○番地○○○洋服店において洋服生地等を窃取した等の事実に基き、特別少年院に送致する旨の決定を受けたが、少年は右犯行に際し右店内に入らず外に待つていて右Gが盗み出した物を運搬してやり同人より金五千円を貰つたに過ぎないのであつて、これだけのことで特別少年院に送致されることは不服である。というのである。

よつて審按するに、少年がGと共謀の上前記窃盗の罪を犯したものであることは、本案少年保護事件記録に現われた証拠に照らし明白であり、所論は、右窃盗共同正犯における少年の地位役割が従属的であつたことを主張するに過ぎないものと認められ、原決定にはいささかも事実誤認の疑は存しない。そこで進んで前記記録並びに少年調査記録に徴し、原決定の処分の当否につき判断するに、少年の非行歴はすでにその小学校在学中に発し、爾来少年は児童相談所の指導措置を受け、或いは保護観察に付された後、昭和三十年十二月及び同三十二年十二月の二回に亙り少年院送致の決定を受けてそれぞれ相当期間施設に収容され、同三十四年五月十一日愛知少年院より仮退院を許されて帰宅したものであるにもかかわらず、その後一月余りで原決定判示第一の(2)の犯行に及んだものであつて、その犯罪的傾向は相当進んだものというべく、その性格は移り気で自己顕示性強く、要求水準が高度であるに対し、内的抑制力に欠けるため、行動面において軽卒で短絡即行的傾向の強いことが認められ、またその家庭は貧困であつて両親は子女を教育する意慾及び能力を欠き、長兄Y、次兄G、弟Kはいずれも少年院送致或いは前科の経歴を有し、その家庭環境は少年を受け容れるに最も不適当であり、交友関係また極めて不良であるが、他面少年の反社会性は遺伝的負因というよりは、家庭の貧困と犯罪性のある兄や友人等の影響によつて後天的に形成されたものであつて、少年は今なお特別少年院における長期の矯正教育によつてその非行性をいくらかでも弱め、性格を改善し、社会的適応力を身につけ得る余地を残しているものと認められる。してみれば、少年に最後の更生の機会を与える意味で、再度少年を特別少年院に送致することは適切妥当な措置であると認められ、この措置に出た原決定は相当である。その他原決定には決定に影響を及ぼすべき法令の違反、重大な事実誤認、処分の著しい不当ありと疑うべき事由を見出し得ない。

以上の理由により本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、少年法第三十三条第一項により、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 岩田誠 判事 八田卯一郎 判事 司波実)

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